スネアドラムは打面は普通のドラムヘッドを張りますが、タムやバスドラムに比べて非常にハイピッチにチューニングします。また裏面には専用の薄いヘッドを張り、しかもその上に響き線(スネア、日本ではスナッピー)を圧着させるという非常に独特なドラムです。そのためタムやバスドラムとはチューニング方法が異なると思われて様々な真偽の不明なチューニング方法が巷に溢れてしまっています。
そこでここでは打面ヘッド(トップヘッド)、裏面ヘッド(スネアサイドヘッド、ボトムヘッド)がスネアの音色にどのように関わっているかを科学的に検証し、目的のスネアサウンドを作るための正しいチューニング方法を探っていきたいと思います。
スネアドラムのチューニング方法の概要については下記の記事に記してありますので、まずそちらを読んだ上でお読みください。
*これから出てくるヘッドのチューニングピッチ(Hz)はドラムチューナーtune-botの基本的なチューニング方法であるヘッドの外周のテンションボルト付近を叩いた時に出るovertone(倍音)の値です。
ドラムのチューニングにドラムチューナーを使うことは言わずもがななのですが、スネアドラムは上下ヘッドの厚さが違うため倍音構成が全く異なり、上下ヘッドのピッチを同じにすることすらチューナーを使わないと困難です。チューナーを持たないギタリストがいないようにドラマーもチューナーを持ちましょう。
上下ヘッドのピッチを相対的に変化させた場合
タムやバスドラムでは打面ヘッドと裏面ヘッドのピッチの中間値(打面ヘッドが3G、スネアサイドが3Aなら中間値は3G#、3Fと3Aなら3Gが中間値です。)が等しければドラム全体が出す音(基音、tune-botではファンダメンタル・ノートと呼んでおり、主たる倍音の中で一番低い音です)のピッチはほぼ同じという法則があります。まずその法則がスネアドラムでも当てはまるのかの検証です。
打面ヘッドとスネアサイドヘッドのピッチ(Hz)の和を等しく保ちながら、打面がスネアサイドより半音3つ分低い状態(3♭)から半音3つ分高い状態(3♯)まで変化させてその音を収録しました。
打面ヘッド(Hz) スネアサイドヘッド(Hz) (両ヘッドの音の隔たり)
① 294 349 (3♭)
② 302 339 (2♭)
③ 311 330 (1♭)
④ 320 320 ( ±0 )
⑤ 330 311 (1♯)
⑥ 339 302 (2♯)
⑦ 349 294 (3♯)
この組み合わせでチューニングしたスネアドラムの音を①~⑦の順に連結した音声です。
後になるに従ってピッチが高くなっているように聞こえます。これを周波数解析してみます。
a=低域 b=中域 c=高域 と便宜上呼ぶことにします。
中域や高域では層の模様が右上がりになっているのに対し低域では右上がりの傾向はほと んど見られません。低域の中で特に赤い部分(黄色の矢印で挟まれたところ)が基音(一番低い倍音)なのですが、この解析から基音にほとんど変化はないことがわかります。即ち上下ヘッドのピッチの和が同じならば基音は変わらないというタムで見られる法則はスネアでも当てはまるということです。
スネアサイドヘッドのみピッチを変化させた場合
次はスネアサイドヘッドが音色にどのように関わっているかの検証です。
打面ヘッドのピッチは変えずにスネアサイドヘッドのピッチのみ変化させてみました。打面よりスネアサイドが半音3つ分低い状態(3♭)から半音3つ分高い状態(3♯)までチューニングを変え、その音声を収録しました。
打面ヘッド(Hz) スネアサイドヘッド(Hz) (両ヘッドの音の隔たり)
① 320 269 (3♭)
② 320 285 (2♭)
③ 320 302 (1♭)
④ 320 320 ( ±0 )
⑤ 320 339 (1♯)
⑥ 320 359 (2♯)
⑦ 320 381 (3♯)
この組み合わせで収録した音声を①~⑦の順で連結した音声です。
周波数解析してみます。
今度は中域、高域の層の模様は右上がりにならず等高のままですが低域の基音の部分は右上がりになっています。つまりスネアサイドヘッドのピッチを上げていくと聴感上のピッチは変わらないようでいて実は基音が上がり、低域が上にシフトするのです。
結論
上下ヘッドのピッチの変化がスネア全体の音色にどのように関わっているかをまとめると以下のようになります。
●スネアでもタム同様上下ヘッドのピッチ(Hz)の和が等しければ基音は等しい。
●聴感上のピッチは打面ヘッドのピッチで決まる。
●スネアサイドヘッドのピッチは低域成分を左右する。
作りたいスネアサウンドが決まっている場合、まず打面ヘッドでピッチ感を作ります。(ローピッチ260~280Hz、ミディアムピッチ290~330Hz、ハイピッチ340~390Hz、超ハイピッチ400~450Hz)
次にスネアサイドヘッドを打面ヘッドと等しいピッチでチューニングします。そして小口径のタムとの共鳴が少なくなるポイントをさがしてスネアサイドヘッドのチューニングを多少上下させます。(特にレコーディング時、打面が300Hz以下のロー~ミディアムピッチの場合は基音が190Hz以下にならないようにスネアサイドは高めにしてください。打面が260Hz程度ならスネアサイドは350Hz以上、打面が300Hz程度ならスネアサイドを310Hz以上にすると基音が190Hz以上になります。そうすることで再生環境によりスネアの音色が大きく変わることが避けられます。)
小口径のタムを使用しない場合や非レコーディング時はスナッピーの反応を見ながらスネアサイドヘッドのチューニングを上下させます。あまり極端にローピッチ、ハイピッチにはせず、280Hz~360Hz程度の間に収めるのが音のつまり感も少なくスナッピーの反応もいいようです。
巷ではスネアのチューニングについて怪しい知識が横行しています。それらに惑わされず正しい知識を身に付けてください。
Weckllover Drums Laboratory ~ドラム研究所~
チューニング方法などドラムにまつわるあれこれを記しています。
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